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佃島で佃煮を買う [東京散策]

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佃島に出掛けました。
いわれは御存知のように江戸初期に徳川家の命により摂津佃村の漁民が移住した島です。
当初は島でさえなく、拝領したのは二百間四方の干潟であったそうです。
ここを埋め立て佃島と名付けて住み、摂津の住吉三神をここに祭ったのは正保3年(1646年)のことです。

住吉祭りは歌川広重の浮世絵にも描かれるように、江戸の盛大な祭りとして知られています。
住吉神社の例祭は8月6、7日。
残念ながら、今年の例祭は既に終わっています。

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深川八幡宮同様、本祭は三年に一度。
前回は平成24年でしたから、次は来年ですね。
本祭がある年以外の例祭を「蔭祭り(かげまつり)」と言うのだそうです。
今年の祭りは「かげまつり」でした。

丸谷才一の短編小説「鈍感な青年」は、住吉神社のかげまつりの様子を描いています。

小説は、図書館で知り合った若い男女の話です。
青年が娘を祭りに誘います。

「ぢやあ、お祭りにゆかう、佃島のお祭りだから」
娘は大きな眼をもっと大きくして訊ねた。
「佃島つて、あの銀座の向こうにある?」
「うん」
「佃煮の?」
「うん」 

・・・と、早速「佃煮」が出てきますが、小説の描写を続けます。
 
グレイのTシャツに白のキュロットスカートの女と、白のワイシャツに紺のズボンの男が、顔にも腕にもうつすらと汗を浮かべて、川風の涼しい佃大橋を歩いてゆく。
「あれが勝鬨橋」
「知っている」
「海の匂いがする。しない?」

私も佃島に向かって歩いています。

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小説の中で、娘が「あ、牛若丸の橋」と小さく叫ぶ橋です。
船溜まりに架かる佃小橋です。

「とにかくすごいお祭、エネルギーがムンムンといふ感じ。東京のお祭ぢやなく、江戸の漁村のお祭」

青年は2年前に見た本祭のつもりで娘を案内するのですが、静かな蔭祭りの風情の描写が始まります。
二人の会話。

「今年は縁日、どうしたのかな?」
「それが問題」
「困ったな」

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蔭祭りについて、境内で会った老人から、二人はいろいろ話を聞きます。
以下、引用です。

「どうして三年に一度なのかとか、(あれだけの祭りは毎年はとてもできない。昔は豊漁の年だけだった)」

この小説でいろいろ教えられました。

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「あとはもう、見るものがなかった。二人は境内を横切って鳥居をくぐり、路地を抜け、赤い祭提燈をさげた家がまばらにある道を歩いてゆく。たいていの家がきれいに磨き上げた古い格子戸で、それを明け放してある。佃煮屋の前で娘は立ちどまり、思案したあげくまた歩き出す。」

境内から二人と同じルートで、私も歩いています。
私の場合は佃煮屋の前で思案することなく、ガラス戸を明け店内に入りました。

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目的は、これでしたので、「思案したあげくまた歩き出し」てしまっては具合が悪い事になります。
「お茶漬け昆布」と「浅利」を買ってきました。

蕎麦屋で氷いちごを食べる二人の会話の中から、「佃煮と時雨煮はどう違ふとか」・・・に考え込む私です。


さて、丸谷の小説の二人はこれから青年の部屋に行くことになりますが、
さきの成り行きが気になる人は小説を一読頂ければと思います。


樹影譚 (文春文庫)

樹影譚 (文春文庫)

  • 作者: 丸谷 才一
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 1991/07/10
  • メディア: 文庫

「鈍感な青年」「樹影譚」「夢を買ひます」を所収

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