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鬼の如く黒く恋の如く甘く地獄の如く熱き [東京散策]

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新橋駅から高架沿いに歩いています。
煉瓦造りの高架は東京駅開業に先立ち、東京市郊外輪環線(山手線のことです)の一部として明治39年に着工された建造物です。
煉瓦アーチの高架による立体交通システムは、当時としては画期的なものだったでしょう。
使用された煉瓦の数を想像すると気が遠くなります。
100年物の風合いを楽しみながら、しばらく線路沿いに歩いてみました。

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カフェーパウリスタで一休みしました。
明治44年(1911年)開業のカフェです。
入口に近づくと、店内のボーイさんが厳かにドアを開いてくれます。
「人力自動ドア」に感激します。
贅沢な気分になりました。

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今回のタイトル「鬼の如く黒く恋の如く甘く地獄の如く」はこの店の宣伝文句です。
フランス革命期の政治家フーシェの言葉「良い珈琲とは、悪魔のように黒く、地獄のように熱く、天使のように純粋で、愛のように甘い」が下敷きになっているのだそうです。

コーヒーは江戸時代に出島を通じて伝わりましたが、当時の日本人の味覚には合わなかったようです。
「紅毛館にでカウヒィというものを勧む。豆を黒く煎りて粉にし、白糖を加えたるものなり、焦げ臭くて味うるに耐えず」と太田蜀山人が書き残しています。
ウイスキーのスモーキーフレイバーが当初日本人に受け入れられなかったと同様のことがコーヒーにも言えるようです。

パウリスタの開業時のいきさつや歴史については、「カフェと日本人」(高井尚之著)という本に詳しく紹介されています。
うんちくはこの本に譲り、コーヒーを味わいたいと思います。
創業時同様の大振りのカップからコーヒーの香りが立ち上っています。

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散歩再開しました。
パウリスタのある銀座八丁目中央通から1本西にある金春通りです。
住所表記は銀座八丁目ながら、ここが新橋芸者の置屋や待合が、かつて並んだ花街です。

「帳場の長火鉢には内儀さんがもう楊枝を使いながら、昨夜の埋火をかき立てているところであった。
何処となく酒の香の立ち迷うようなうす暗く湿っぽい家内に引き換えて、障子の擦り硝子からは表の格子戸の越して、往来の向側に輝く冬の朝日が如何にも暖かく麗らかかそうに見えた。」
永井荷風が「新橋夜話」に描いたような風情はどこにも見当たりませんでした。

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通りにある金春湯は、文久三年(1863年)からの銭湯です。
芸妓は、お座敷に出る前に湯屋に行ったものです。

「今、お湯(ぶう)ですって、直ぐ参ります」
 
荷風の「新橋夜話」の中の、こんな会話を思い浮かべながら歩いています。 
唐物屋の若旦那京さんが、待合で芸妓菊松を待つ場面です。

金春湯の「のれん」を介して、華やかなりし頃の光景を偲びました。

カフェと日本人 (講談社現代新書)

カフェと日本人 (講談社現代新書)

  • 作者: 高井 尚之
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/10/17
  • メディア: 新書

すみだ川・新橋夜話 他一篇 (岩波文庫)

すみだ川・新橋夜話 他一篇 (岩波文庫)

  • 作者: 永井 荷風
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1987/09/16
  • メディア: 文庫
 

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