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金沢・雨宝院・西廓 [只今出張中]

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福井から移動し、金沢の香林坊のホテルで朝を迎えました。
早朝の散歩に出かけます。
昨年の春、浅野川右岸の東茶屋町、左岸の主計町を訪れました。
金沢にはもう一か所花街があります。
犀川の西の西茶屋町です。
そこまで足を伸ばしてみたいと思います。

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途中、第四高等学校の跡に寄り道をしました。
レンガ造りの建物が残されています。
金沢大学の理工学部の教室として使用され、今は石川近代文学館となっています。
金沢の三文豪と呼ばれる泉鏡花、徳田秋声、室生犀星の展示などがあるそうですが、今は早朝、まだ開館前です。
外観のみを眺め、西茶屋町を目指すことにします。
ただし、犀星は西廓の近所で少年期を過ごしていますので、今回は彼に案内をしてもらいます。
ガイドブックは室生犀星の自伝的小説「性に目覚める頃」です。

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犀川大橋です。
現在のトラス式鉄橋は大正12年に架けられたものです。
犀星がこのあたりに暮らしたころは未だ木造の橋でした。
犀星は私生児として生まれます。
犀川の左岸、雨宝寺の養子として引き取られたのは7歳の時です。

17歳のころには学校を中退し、寺の奥の院に籠り読書と詩作にふける日を送っていました。
小説は茶好きの年老いた養父との静かな生活を思わせる冒頭で始まります。
そのような生活の合間に、詩を雑誌に投稿します。
結果を気にしつつ、大橋を渡って本屋通いをする様子が描かれています。
「しかもその中に自分の詩が出ているという事実は、まるで夢のように奇蹟的であった。私は七月の太陽が白い街上に照りかえしているのに眼を射られながら、どこからどう歩いてどの町へ出たか、誰に会ったか覚えていなかった。私はまるで夢のように歩いて、いつの間にか寺の門の前に来ていた。」
投稿が採用され中央の雑誌に載った喜びが伝わってくる文章です。

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真言宗雨宝院の佇まいです。
詩作を通じで同じ17歳の友人と付き合いが始まります。
小説では、友人はとんでもない女たらしで、その交友を通じて犀星は性に目覚めていきます。
面倒なので、詳細は一切省略しますが。
思春期の少年の気分が上手く描写された一文だけ、引用しておきます。
「廓に近い界隈だけに、夕方など、白い襟首をした舞妓や芸者がおまいりに来たりした。桜紙を十字にむすんだ縁結びを、金毘羅さんの格子に括ったりして行った。その縁結びは、いつも鼠啼きをして、ちょいと口で濡らしてする習慣になっているらしく、私はその桜紙に口紅の烈しい匂いをよく嗅ぎ分けることができた。そのうすあまい匂いは私のどうすることもできない、樹木にでも縋みつきたい若い情熱をそそり立て、悩ましい空想を駆り立ててくるのであった。」

そうです、雨宝院は西廓の近くにあり、花街の女性は信心深いのが常ですから、よくお参りにきたのでしょう。
犀星はそんな女性たちを観察する機会が多い環境に生活していたのですね。

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「私は夕方からひっそりと寺をぬけ出て、ひとりで或る神社の裏手から、廓町の方へ出て行った。廓町の道路には霰がつもって、上品な絹行燈のともしびがあちこちにならんで、べに塗の格子の家がつづいた。私はそこを小さく、人に見られないようにして行って、ある一軒の大きな家へはいった。」
小説の終盤です。
あらあら、犀星さん、養父の金を失敬して、廓に出かけています。
雨宝院から曲がりくねった路地を抜け、私も犀星の後を追って西廓にたどり着きました。

そろそろ朝食の時間となりましたので、Uターンして宿へ戻ります。
頭を仕事モードへ切り替えるのが厄介な散歩となってしまいました。

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金沢みやげ。
加賀百万石の城下町だけあって森八の長生殿ほか銘菓がたくさんありますが、あえて小松の和菓子を選びました。
創業嘉永5年と包みに記載されています。
松葉屋の栗蒸し羊羹です。

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竹皮を剥ぐと、包みの竹皮ごと蒸したことが分かりました。
昔ながらの製法が守られています。
栗がぎっしりつまり、餡の甘さはあくまで控え目の美味しい羊羹でした。
正直を製品にするとこのような形になるのだと感心しました。

室生犀星は文壇で名を成すようになって以降、金沢にはあまり帰っていません。
あんな小説を書いてしまっては、そうかもしれません。
しかし犀川の風情を愛していたようです。
筆名は犀川の「犀」を使い、犀川の西で育ったということから西の音に通じる星の字を当てています。

「ふるさとは遠くにありて思ふもの、そして悲しくうたふもの」
あまりにも有名な犀星の詩句です。


幼年時代―性に目覚める頃、或る少女の死まで (愛と青春の名作集)

幼年時代―性に目覚める頃、或る少女の死まで (愛と青春の名作集)

  • 作者: 室生 犀星
  • 出版社/メーカー: 旺文社
  • 発売日: 1997/04
  • メディア: 単行本

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